五感を惑わす霧の夜は、一人きりで居てはいけない。

ほら、森の精がやってきて、

貴方を醒めない夢の中へと誘ってしまうから……

 

 

 

 

 

 

 

 

ただでさえ鬱陶しい森の中、あたり一面の濃霧。

いかに任務とはいえ、この状況で闇雲に前に進むのは得策とは言えない。

 

ディエドール元帥捜索隊の神田・マリ・デイシャの3人は、

行方を阻む悪天候に身動きが取れなくなっていた。

 

 

「今日はここで野宿とするか……

 このままでは道を見失ってしまうからな」

「まぁな、慌てる乞食は貰いが少ないっていうしなぁ」

「……俺たちは乞食じゃねぇ……」

 

 

イラつきを隠せない神田は軽く舌打ちをしながら、

憎らしい霧の海を睨みつけていた。

 

 

「神田ぁ、そう怒んなよ。

 とりあえずは一休みすると思って……な……?」

 

 

デイシャがおどけた表情で神田を覗き込む。

長い付き合いの同胞にそう言われてしまっては、

さすがの神田も己の気を静めるように努めるしかなかった。

 

 

「仕方ネェな……」

「そうそう、こんな寂しい夜は、

 福与かないい女の懐で眠りにつく夢でも見てだな……」

「デイシャ、神田にそういう話は禁句だろう……」

「……っとぉ、そうだった!くわばら、くわばら……」

「……お前、どこの親父だ?今時そんな台詞言う奴、そうはいねぇぞ?」

 

 

3人で顔を見合わせ、誰からとも無く口元を綻ばせる。

 

 

「ま、誰か早く目が覚めて霧が引いてたら起こしてくれや」

「……ああ……そうだな……」

 

 

それぞれが手ごろな木にもたれかかり、束の間の休息を取ろうとする。

六幻を懐に抱えてゆっくりと目を閉じた。

頭の上の木々のざわめきが、まるで子守唄のように

神田を優しく眠りへと誘っていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

『カンダ……ねぇ……カンダったら……』

 

 

誰かが優しく頬に触れる。

その声の響きは甘く、神田の心へと染み入ってくる。

確かに聞き覚えのある声の主を求めて目を開けようとするも、

身体がだるくて言うことを聞かない。

 

その声の主は優しく頬を撫でながら、

今度はゆっくりとその唇に自分の唇を重ねる。

 

 

「……んっ……ふぅ……」

 

 

初めはゆっくりと、啄ばむように。

そして徐々に深く……貪るように……

慈しむ様なキスの甘さに、この唇の持ち主が誰であるのか、

神田には自然に理解できていた。

 

長い長い口付けは、互いの熱を求め合うべく続いていた。

舌を絡ませあい、唾液を吸い上げる度、

愛しい相手の柔らかい髪が頬に触れ、

甘い香りが全身を痺れさせた。

 

 

「……ア……レン……」

 

 

神田が愛しい相手の名前を読んだ瞬間、

今度は可愛い声が耳元で囁く……

 

 

『嬉しいな……カンダ……

 今日はモヤシって呼ばないんですね……』

「何故、ここに居るんだ……?」

『貴方が好きだから、追いかけてきちゃいました』

「馬鹿が……他の皆が目を覚ましたらどうする……」

『……大丈夫……皆さん良く寝入ってますから……

 ……だから……ねぇ……カンダ……?』

「……うっ……」

 

 

アレンは神田の首筋に唇を落とし、

その胸元を押し広げる。

ズボンの中にするりと綺麗な手を滑り込ませたと思いきや、

神田自身をその手で抱え、今度は優しく愛撫を始めた。

 

 

「……ばっ……お前……んなトコ……」

『……嘘つき……ここ、気持ちいいでしょう……?

 カンダのことが好きだから……もっと、もっと気持ちよくなりましょう?

 ……ね……?』

 

 

首筋にアレンの暖かい吐息を感じたと思ったら、

今度は下半身に生ぬるい感触を感じる。

 

 

「……くうっ……」

 

 

その感触は紛れも無くアレンのもので……

神田は愛しい相手の姿を一目見ようと、重い目頭に精一杯力を入れて

瞳を開けようとした。

だがようやく開けられたと思った瞳には、

アレンの姿が一瞬ぼんやりと映っただけで、

またすぐに縫い付けられるように閉じてしまう。

 

 

「チッ……なんだって言うんだよ……!

 何で身体が言うことをきかねぇ……」

『いいじゃないですか……

 今日はボクが全部してあげますから、

 カンダはそのまま楽にしていてください』

「馬鹿言うんじゃネェ……

 俺はお前と一緒にイキてぇんだよ……」

『……カンダ……嬉しい……』

 

 

次の瞬間、蕩ける様な快感が神田を襲う。

神田自身に纏わり付く熱に犯されるように、

神田は己の熱をあっという間に解き放っていた。

 

 

『ねぇ……カンダ……?

 このままボクと一緒に……このままずっとこうしてませんか?』

「……?!……」

 

 

誰よりも愛しい少年の面影が脳裏に蘇る。

その笑顔を心に刻みながら、神田は胸元に抱えていた六幻の柄に手をかけた。

 

 

「……てめぇ……誰だ……?!」

『……カンダ……?』

「俺の好きな奴は、そんな泣き言いわねぇんだよ!

 俺に怒鳴られるって知ってて、そんな誘い文句言う奴でもねぇ!」

『……ウフフ……

 バレちゃいましたか……けど……ほんとにカンダのこと……

 気に入ってたんだけどなぁ……

 ……ざんねん……』

 

 

サァッと身体の表面を、暖かい風が通り抜ける。

瞬間、今まで感じていた身体の重みが嘘のように消え去る。

ゆっくりと目蓋を開けると、そこには懐かしい白い髪の少年の面影があった。

 

 

「……モヤシ……?」

 

 

己の手をその人影に伸ばすと、

予想もしていなかったガラガラ声が耳を裂く。

 

 

「げっ!お前誰の夢見てんだぁ? 気色悪ぃ〜ぞ?」

「……デイ……シャ……?」

「神田が最後まで起きないなんて、珍しいこともあるもんだな。

 まぁ、そのお陰で、私たちもゆっくりと休めたというもんだが……」

 

 

辺りはすっかり夜が明け、夕べの濃霧も嘘のように晴れ渡っていた。

 

 

「……そうか……夢を見ていたのか……」

 

 

神田はゆっくりと背伸びをすると、辺りを見渡した。

すると自分が凭れて眠りについた樫の大木が、

さわさわと何か言いたげにざわめいたのだった。

 

 

『……本物もあれだけ積極的だったらな……』

 

 

まぁどう転んでも無理かと、神田はひとりごちて軽く笑った。

その笑顔を垣間見た仲間の二人が、

その日一日別行動をしようと提案したのは言うまでもない。

 

これから襲い来るアクマとの戦いを知り、

妖しの森は、愛しい青年に一時の安息を与えたに過ぎなかった。

ほんの束の間の癒しの時を……

 

 

 

 

 

現実の醜さに疲れたら

深い深い霧の夜

あなたもこの森へ来ませんか?

きっと永遠に醒めない夢を

貴方に見せてくれるはずだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                            

 

 

≪あとがき≫
スミマセン〜〜〜〜( ̄▽ ̄;)
急にエッチなシーンを書きたくなって、こんな駄作を書いてしまいました;
ほんの箸休めに読んでくださればと思います;
でも、神田だったら……
森の精でなくても……襲いたくなっちゃいますよねぇ……(撲殺;
そう思うのって、私だけ……???;

 

 

 

 

 

 

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〜妖しの森〜